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日本茶の店 清水茶寮からのお便り

店主の徒然日記、ハーブ園から、森林から便りが届きます・・・

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記憶に残るお礼の言葉


「ごめんなさい。今電話中なの。とにかく中に入って。」
Tさんに言われて家に上がり、今まであったものがなくなった、ちょっとガランとした部屋の中で電話が終
わるのを待った。
「本当に東京ガスさんには長いことお世話になりました。ありがとうございました。」
穏やかな口調の、その言葉にえっ?と思った。
「ごめんねぇ。電気も連絡しちゃっていい?」
「あっ、どうぞどうぞ。お気遣いなく…。」

多分、70代後半位くらいのお年であろうTさんは、私が日本茶の店を始めた頃からお茶を買い続けて下さ
っているお客様だ。半年に一度「お茶がなくなりそうだから、悪いけどおすすめのお茶を適当に持って来て
くれる?」と連絡が入り、私はおしゃべりを楽しみに、お茶を選んで出かけて行く。
…こんな場面を何度もつくって頂いた。

そのTさんから、暮れに、年が明けたら、雪国にあるケアハウスに引っ越すことにしたと連絡が入った。
お一人暮らしではあるが、数年前に息子さん一家が近くに越してこられたと喜んでおられたので、まさか、
の連絡であった。聞けば、今まで縁も縁もない雪国の地への転居だ。
「雪国っていったって、知り合いもいないんだから寒い外に出ることもないでしょうから大丈夫よ。」
知り合いもいないって、…電話の向こうで笑うTさんに何があったのだろう。

年が明けてようやくTさんの家にお伺い出来た、その時Tさんは電話中であった。
「今度引っ越すことになったので、電気を止めてほしいのですけど…」
しばらく、やり取りが続き、そして最後に
「東京電力さんには、長いことお世話になりました。ありがとうございました。」

前の電話のガス会社と同じように、丁寧にお礼をおっしゃった。
ガスや電気を止める連絡を、もしも私がした時に、果たして口から心から、お礼が出るだろうか。
Tさんの「ありがとうございました」は、電話口の向こうの方に頭を下げているのが想像出来たし、何よりも、
今までの東京暮らしへの、住み続けたこの家と家族で暮らしていたその時間への慈しみを、大事に思う
気持ちを十分に感じさせた。

毎度、おすすめとしてお持ちしたお茶の封を開けて、私がお茶を淹れて飲んで頂いた。
煎茶を淹れてひとしきりおしゃべりをして、その後に晩茶やハーブや紅茶、その時々に楽しんで頂いたが、
今日は引越しの為の片付けの様子が分らず、少しの晩茶と、急須がなかった時の場合にTバッグと、湯飲み
がなかった時の場合に携帯用の抹茶道具を持参して出かけた。私が来るからとわざわざ用意して下さったか、
いつもの急須と湯飲みが出ていたので、晩茶を淹れさせて頂いた。

本当は挽きたての抹茶も飲んで頂くつもりで出かけたが、気が萎えてしまった。
なんとも美味しそうにお茶を飲んで下さっている。
「あー晩茶って美味しいわね。あなたが淹れてくれるとまた格別。本当に美味しい。…向こうへ行って何が
どうって、あなたの淹れてくれるお茶が飲めなくなるのはつまんないわね。向こうで美味しいお茶が飲めな
かったら、美味しいお茶ありますよって宣伝してあげるね。」
この場面の空気をかえたくなくて、美味しいと言って下さった晩茶のにおいを、Tさんの家の記憶の一部
にして頂こう、と、二人で素朴で温かな晩茶を飲みおしゃべりを続けた。

肝心な、突然なぜ、雪国へ引っ越されるかの理由が聞けず、胸の中が詰まったままの私は気の利いたことも、
いつでも、お茶を淹れに行きますよ、の喜ばせるような言葉も言えなかった。

お茶を飲んでいるTさんの姿を写真に撮らせて頂きたいと、デジカメを用意して行ったが、さりげなく撮って
しまうことができない。何となく、デジカメを手に持ったままでおしゃべりをする私にTさんが、
「いやだ、今更私を撮ってどうするのよ。こんなおばあちゃん、やめてよ。」
「…あっ、ねぇ、この窓からの風景撮ってくれる?プリントできるんでしょ。」
「うーん、何にもない空だけの写真になっちゃいますけど。」デジカメを通して外を覗きながら私は言った。
「いいの。いいの。この窓から見る空ともお別れだから、写真で持っていって懐かしむかな。…そのうち、
これ何だっけ、ってボケちゃうかもしれないけどね。」
「何いってんですか。」…と言いつつも、このお年で、知り合いのいない地へ転居するTさんに、どうにも
感傷的になって、私は泣けてきそうだ。
ファインダーから空を覗きながら、「鳥でも飛んできてきれないかな…、あーせめて飛行機でもいいや、
もう、せめて綺麗な雲は出ないかなぁ…」と願ったところでやっぱり空はただ、青い空だった。

「青空はわかりにくいかもしれませんけど、夜空は向こうの方が絶対に綺麗ですよね。」
「そおね。」Tさんが優しく微笑まれた。

Tバッグをお土産に置いて私は家を出た。あらたな出発をされるTさんの、本当の心根は全く分らず、分った
ところで何もできないけれど、少しは分りたかった。
ただ、使い続けた、ガスや電気に対しておっしゃった、深々とした感謝の言葉と、何年もわたって時々使わ
せて頂いた、熱いお茶の入った掌の湯飲みの感触を私の記憶の中に頂戴した。

年初めのお茶のある場面は、ちょっとだけ、淋しい気持ちを内包したスタート。
さて、明日は茶道の稽古の初釜。心あらたに、お茶を楽しもう。







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  1. 2014/01/11(土) 22:14:32|
  2. 店主の日記

新年早々・・・・

椿 (朴伴)
明けまして おめでとう ございます
本年も個性豊かなお茶をお楽しみいただけますよう、よろしくお願い致します

さて…、暮にご挨拶を書かせていただいた後、突然PCが不調となり、続いて購入してまだ1年しか経って
いないプリンターが動かなくなり…と年明けはご挨拶に来て下さったお客様との時間をのぞけば、
PCに釘付けでありました。PCに滅法弱い私は対応お手上げ、プリンターを新しく購入し、PCはとりあえずは
使い慣れないPCで、ただ今ようやく新年のご挨拶をさせていただいております。

新年早々、一歩先、何が起きるか分らない、を実感させられています。

お正月にご紹介する予定のお茶が、今か、今かと出番待ちしているようにも感じはじめており、
PCが元の鞘に納まりましたら、早々にご紹介・販売させていただきますのでよろしくお願い致します。

  1. 2014/01/05(日) 18:37:14|
  2. 店主の日記
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せいすいさりょう

Author:せいすいさりょう


清水茶寮(せいすいさりょう)では、
無農薬・無肥料の、昔ながらの製法のお茶をはじめ、品種のもつ個性を活かして作られた煎茶、挽きたての抹茶、有機農法(バイオダイナミック農法)によるハーブなどをご用意して、日本のお茶の美味しさをご紹介しております。
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